「6月の日常」藤井安剛/作家便り6月雨はいつから降り出したのか。
午前の作業場には、もう浴びる程の湿度の粒子が満ちていた。
スタンドの光源、その真下10cmのところでは、饅頭型をした象牙の小さな塊に、自動書記でもないんだけれど、手と刀が勝手にポツポツと、100や200じゃ効かなくて、恐らく1000や2000じゃ効かなくて、それ程の数のポツポツを刻んでいくのである。
空ろな意識がコンマ何秒か後に追い掛けてはいるのだが、それこそが事務的な確認作業に過ぎず、ポツポツの瞬間と心は、どこまで行っても合致することが無いのだ。
そんなだから、最終的に、刻まれた穴の集合体をお歯黒で染めるのか、又は、墨を薄墨から試してみて丁度良い「黒」を見付け出すのかーそういう肝心な事さへも決め兼ねているのである。

工芸に携わっていられる「とてつもない幸せ」は、日々の日常の中に埋もれ、薄められていく。慣れは人の常だが、何かの拍子にそれが掘り起こされ、嬉しくなることもたまにはあるのだ。
- 2009/06/17(水) 00:05:30|
- 藤井安剛(東京/東村山)
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