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根津の根付屋 & Gallery 花影抄 blog

東京・根津にある主に現代根付、立体作品をご紹介しています、Gallery花影抄のblogです。
展覧会や取扱作家情報などを発信しています。

作家便り2019年7月/「老根付師 徒然草 文月」 齋藤美洲(埼玉)

七月なのに何故か文月。
旧暦の事もあって、稲の穂が出る時期故に、穂を見る月が変化して、
文月と呼ぶ様になったと聞く。

高校時代、校舎から1KM先に駅があり、登校路の回り一面が田圃だった。
稲穂が出て、緑の内は、さざ波の如く揺れて、見えない風を知らされる。
秋、田全体が黄金色に変わり、強い風の時は、台風の時の大波の様に、
波長の長い大きなうねりとなり、豊穣を知らせる姿は圧巻であった。
若き日の一情景。


老婆心
5月、花影抄にて、ドイツの根付彫刻を志す青年と話をした。
本来は画家であるが、立体に興味を持ち、根付を選んで6年を経るという。
PCの時代、根付に関する情報は得られるが道具や造り方に関しては得にくいという。
私の道具や作品も見せ、彼の作品、折しも若手作家の個展開催中であったため
その作家の作品を見ながら、他の若い作家、来展したベテラン作家たちも同席しての
長時間の根付談義は、私が若い頃の仲間たちとの会話が想起されて、
熱が入り面白く、かつ有意義であった。
ドイツ根付師の作品向上の一助になったらと願う。

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会話中の感想である。
若い作家たちが志すべきものは、己の作品のランクアップと思う。
古今の名作から駄作までを十段階に分けたとき、自作が何処に位置するかを
客観視し、上に上るには?と模索する姿勢が必要と思われる。
そのためには、美術作品全体を鑑賞し、名品に触れ、
自分が創りたい姿を発見することと確信。
そして、根付師たちとの会話も大切である。
人の仕事、言葉から得るものを吸収し、己の血肉にすることが出来る大切な方法だ。

ランクアップの必要性は、長く根付師の座に留まる為のものである。
一時、人気が出て売れても、その情況に満足して同じクオリティの
作品を出し続ければ、世間の眼は、他に移っていくだろう。
難しい世界である事の、多例を知っているからこそ云える。

この想いから、若い作家や他の人に、作品ランクアップの為、
集まる機会を持ったらと聞いたが、興味を示す言葉はなかった。
年寄りが音頭をとる事なく、これからの人の熱が自発的に
行動を起こすべき事ゆえに、拍子抜けと同時に、我が老婆心に苦笑。


孤独
我々根付師の作業は孤独な日々である。
ただ、脳内にての想いは仕事場を離れ、様々なものだ。
人生、生活、対人、etcあるが、己の作品向上について考える。

人は己を知る為に生まれ、己を見る為に作る、との言は私の座右の銘である。
自分の作品を見て己を知ることは、自作に対する客観で、
より向上の可能性を高めたい者は、孤独ゆえに他者を求め、
他者の言を知ろうとする。
比較、対比によって、他者と己の違いを知り、
より己の本質を知ることが出来るからだ。

他に、孤独を楽しみ、自分の世界に浸り、自分の世界を作り上げ満足する。
他者、他作、他言を容れぬ、いわゆるオタクもある。
例外として、同じ有様でいながら秀作を創る人もいる。
良く観察すると、根付、彫刻、美術の基礎を吸収し、
己が目指すべき理想像を描き得ている。
天才肌というべき根付師も見てきた。
根付師は、それぞれに自分のタイプを知るのも、
自己発見と向上の一助かもしれない。

  1. 2019/07/01(月) 10:00:00|
  2. 齋藤美洲(埼玉)