FC2ブログ

根津の根付屋 & Gallery 花影抄 blog

東京・根津にある主に現代根付、立体作品をご紹介しています、Gallery花影抄のblogです。
展覧会や取扱作家情報などを発信しています。

作家便り2017年11月 齋藤美洲

来年2月にGallery花影抄にて個展を予定している齋藤美洲さん。
久しぶりの個展では前回に引き続きセイウチ牙の化石を用いた作品も出品予定です。
その素材の珍しさ、扱いにくさに対して色々とブログにてご教授もらいました。

セイウチ化石牙彫刻
木枯しの声を耳にして、濃紺の空に一片の月冴か。何かが御座しますとしか思えない感情に、
目を足元に移すと残菊の艶も又、冴か。好きな季節の感性だが、今日日は、PCの世界。
時代遅れの表現かも?呵々苦笑。

セイウチ化石牙の特長
普通のセイウチ牙は、象牙、鹿角に比べ、硬度が高いが、同様に彫刻することは可能である。
この素材の特長は、象牙の如く均一でなく、断面を見れば解るが三層からなる。
外皮(磨いても、内側部分の様な艶が出ない)、内側部(無地)、中心部(泡、粟状の組織)に分かれ、
それぞれの素材の性質は異なる。化石も同様であるが、加えて硬度がより高くなる。

化石は、セイウチ牙が万年単位で地面下に埋もれ、土の成分やバクテリア等で化学変化して、外皮から
徐々に色が付いたものと推測される。よって小片は内部まで変色し、大きな牙は表面のみの場合が多い。

bishu 1_1
興味を覚えることに、マンモスの生息した時代であるゆえに、人類も生存し、骨器も出土され、
それに手を加えるのは、古代ロマンを想起させてくれる。

化石を彫刻する時には、硬さ、性質、発想の三要素を考慮すべきところだ。
 
硬さ
他の素材に比べ、倍の硬度と思われる。リューターのバーの耗り方の早さで解り、この硬度に
負けぬ心構えが必要になる。石化している故、粉塵は喉に悪く、防塵マスク着用を奨める。

性質
石化する過程で組織に繋がりがなくなるためか、粘り気がなく、線彫りにガタが来て、一本毛彫り等、
テクニックを見せる細さは、他の方は知らず、私には出来ない。磨き前に彫れたとしても、磨き作業の
過程で摩耗してしまう。よってテクニックで見せる作品でない発想が必要となる。

発想
この素材は紙上のデッサンを基にして彫り出すのは難しい。デッサンに合った材料はないといえる。
初めに材があって、その中に何が見えるかを発見して制作にかかる、いわゆる
”脳内のデッサン“が勝負になる。それは、化石の持つ独特な色を、ひび割れを、茶道における景色
として生かしたり、泡状部がポロポロと崩れる場合等、その時々でデッサン変更の想定が必要だからだ。

以下、文章だけでは解りにくい故、図入りで説明
長さ11cm強の牙先。表面は黒に近いが、カットすると写真の通り。
bishu 2_8
bishu 4_8
bishu 7_8
深い割が入っていた故、鋸でカット。

bishu 3_13
この固まりの中に何が見えて(想像)来るかが重要で、日数をかけて、具象を見つけるのが作家の本懐。
私は親子鯨を想った。

脳内に完成図をデッサンした後、尾の位置を決めて出発点とする。
bishu 3_13(2)

鋸でカットした部分をカッターで面を作り尾をより作り出す。この段階で、作家として脳内のデッサンに
基づいた造形が出せそうだとホッとする時だ。

bishu 5_13(1)
リューターで、より彫り進め、より具現化しながら空間もつける。小さな根付は空間を持たせることによって、
実際の塊よりも大きく見せる。親鯨の右ヒレにも濃い色を残せたことで、左右の色バランスが保たれるのは嬉しい。

bishu 8_13
ヤスリ、小刀、リューターを併用しながら、ディテールを彫り進める。この段階は、いわゆる荒彫りで、
作品の造形価値が決定される。全体のフォルム、バランス等、彫刻に必要な要素は、この時点で
全て含まれていなければならない。

bishu 4_9
bishu 9_9

これから先の仕上彫りは、小刀で細部まで決めていく。どこで磨きに移るかは、
我が心の師、雅俊先生の“納得するまで”となる。根付師それぞれの納得で作品価値が決まる。
私にとって恐い言葉である。

bishu 2_9


居合抜きの勝敗は、“鞘の内にあり”とか。根付も作る前の発想にあり、と思いつつ、
未完ではあるが、磨き上がりを載せる。

bishu DSC00556

bishu 4_8

bishu DSC00554

以後は観る人の評に委ねる。

bishu DSC00559



  1. 2017/11/29(水) 20:01:01|
  2. 齋藤美洲(埼玉)