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根津の根付屋 & Gallery 花影抄 blog

東京・根津にある主に現代根付、立体作品をご紹介しています、Gallery花影抄のblogです。
展覧会や取扱作家情報などを発信しています。

「至水と蝦夷鹿角」

「蝦夷鹿のこと」

至水が根付の材として使う鹿角はほぼ全て蝦夷鹿の角です。

私自身北海道在住で知り合いに害獣駆除の資格を持つハンターが居り、その方から蝦夷鹿の角を譲って頂いています。

根付の材という観点から言えば蝦夷鹿の角は「悪い材」というのが通説で、
現在鹿角で彫られる根付はニホンジカの角を使用した物が殆どではないでしょうか。

二ホンジカの角は蝦夷鹿の角と同様に害獣駆除された個体の角の他に、
春日大社で毎年行われる「鹿の角切り」等で随時切られた角が現地で販売されていたりするので、
花影抄スタッフの方も仕入れに行かれます。

以前私もGalleryから奈良(春日大社)の二ホンジカの角を送って頂いた事があり現物を手にしておりますが、
生きた鹿の角を切るので、クラウンと呼ばれる根本の末広がりな部位よりも幾分上から切り落とされている為より細身な印象でした。

断面を見ると確かに白く詰まった部分が多く、中心に太目の導管が一つ空いているといった感じで。

01_二ホンジカ角
白いです、もっと白いのも普通にありますね。

一方蝦夷鹿の角は髄の面積が大きかったり、本来白く詰まった部位も黒ずんでいたり、
これが「蝦夷鹿の角は悪い材」と言われる原因なのだと思います。

02_蝦夷鹿角

でもこんな感じでも彫ります普通に使います。

しかし山中で害獣駆除され解体された鹿からその場で切り落とした角は、
クラウン直下の径が太く髄が殆ど入らない詰まった部位が採れたりもします。

クラウン直下から切れるという事は獣毛付きの鹿角もあり、
舟幽霊を彫った際には獣毛を利用した残ばら髪を表現出来ました。

funayurei.jpg


鹿の角は毎年生え変わり前年成長した角は脱離しますので、
運が良ければ自然に抜け落ち断面が丸みを帯びた「落ち角」に山中で出会える事もあり、
抜け落ちてからどれだけ経過したかにも依りますが、髄の中の淡泊質が分解され白みが増した蝦夷鹿角になっています。

ここまで二ホンジカの角と蝦夷鹿の角の違いを私観のみでダラダラと書き綴ってまいりましたが、
ネット通販が一般化した現在では、どちらの角もオークションサイト等で探せば結構簡単に入手出来てしまう訳で、
作家毎の使用する材の地域性というものは「事実上」失われており、あとはもう作家自身の拘りに依るものなのかなと考えていて。

そこで何故に至水は蝦夷鹿なの?と

蝦夷鹿の角を彫り始めた当初はもうホントに髄が嫌で嫌で、リカバリ不能な所まで髄の部位を削り落としすぎたりして、
そこまで掛けた時間と鹿角を無駄にして別の鹿角で彫り直しなんて事も多々ありました。

ところが、なんでしょう、なんと言うか、
いつの間にかその髄さえも鹿角であると言う事として受け入れられる様になってしまっていたのです。

改めて考えてみれば
蝦夷鹿の角の深く濃く染まる髄の色味や、皮目のテクスチャのおどろおどろしさが醸し出す独特な侘感は
「妖怪の意匠と相性が良すぎ」
最早至水の根付は蝦夷鹿の角じゃなきゃってくらいお気に入りな必須の材になってしまっているのでした。

ただこれは、根付彫刻としては「材選びが悪い」と、褒められた事ではないのかなとは思っていて・・・

それでも鹿一頭の命と引き換えに頂いた二本の角を良い材悪い材と選り分けたくは無いというのも本心で。

天然素材だけに切ってみないとわからない鹿角ですが「これで」と決めた鹿角は最後まで使わせて頂き、
決して蝦夷鹿の角である事を理由に「よろしくない」と評される根付に仕上げる訳にはいかんと肝に命じつつ・・・

今日も蝦夷鹿角彫ってる至水です。


03_蝦夷鹿スカル

作業机の上方に鎮座まします蝦夷鹿スカル。
このクラウン直下数cmのみの、最も白く詰まった蝦夷鹿角の大トロ部位を使う日が・・・いつか来るのかなぁ・・・
  1. 2017/07/14(金) 13:50:28|
  2. 至水(北海道)