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根津の根付屋 & Gallery 花影抄 blog

東京・根津にある主に現代根付、立体作品をご紹介しています、Gallery花影抄のblogです。
展覧会や取扱作家情報などを発信しています。

「根付」と「ストラップ」と「根付ストラップ」


※「根付」と「ストラップ」の関係については、根付関係者の間ではしばしば話のタネになるところです。
守亜さんは、「根付ストラップ」という言葉を自ら作って、
小さな樹脂製の生き物フィギュアを展開していますし、「根付」自体も制作しています。
作家・守亜の在廊企画をきっかけに、ちょうど良いタイミングなので、
本人が自身のブログ「アクアプラントジャーナル」に書いた「根付」と「ストラップ」と「根付ストラップ」についての文章を少し編集して、このブログでも、載せておこうと思いました。
少々長い文章ですが、読んでいただけましたら幸いです。
宜しくお願い申し上げます。

守亜による「根付ストラップ」についての指針と私信〜その1〜

「根付とストラップの狭間」もしくは「そもそも根付ストラップって?」

まず最初に言わなければならないのは、「根付ストラップ」という言葉自体がワタシ自身による造語です。
ワタシが最初に根付ストラップという単語を使い始めた約10年前以前にこの言葉があったかどうかは定かではありませんが、結局今の根付ストラップシリーズを説明する上手いカテゴリーが見つからなかったので、根付的でもあり、ストラップ的でもある、でも厳密にいうとそのどちらでもないということで、「じゃあ根付ストラップつーことでー」と勝手に名乗りを上げました。

ですので、今日は根付とは何か、ストラップとは何か、そして根付ストラップとはなんなのか、ということについて手短にお話します。

20130219_427236.jpg

まず、その3種を並べてみました。
左から根付、根付ストラップ×2、ストラップ、です。

ではまず、根付について。

根付については歴史も長く、語りだすときりがないですし、ワタシ自身も根付の本質について何か語ることのできる立場ではありません。その辺を承知していただきつつ、いろいろと細々した説明を抜きにシンプルに、しかも用途についてのみ言い切ってしまうとすれば、「ストッパー」である、と言えると思います。

根付がその用途を発揮していたメインの時代は江戸時代です。そしてその用途はと言えば、例えば煙草入れや印籠など今で言うところの小物入れやポーチ的なものを持ち歩く際に、その小物入れにひもを付け、片側に小物入れ、もう一方の先には根付を付け、根付を帯にひっかけて小物入れをぶら下げる。

そういうふうに使うことが本来の使い方です。
極端な言い方をしてしまえば、小物入れをひかっけてぶら下げるために帯やベルトに通して使えば、どんな形をしていようとも根付であると言ってしまうこともできるはずです。
そうやってストッパーの役割をしていた塊が、後世、根付師と呼ばれる細工彫刻家の手によって手の込んだ美術品へと進化を遂げていきます。そのあたりのことはワタシも語るだけの知識を持っていませんので、興味のある方はそれぞれ調べていただくことにしまして、根付の形態についてシンプルにまとめます。

・ストッパーという用途のためにあまり尖った形は敬遠されて、丸みがあるか、手の中に納まるような形をしている(単純に角が出ていたりすると使っているうちに折れたりもするので)
・本体に紐を通すための穴が空いていて、紐はあとから付ける(脱着可能)
・根付の正位置に対して紐が下(小物入れをぶら下げるという用途のため)

そして、付け加えるならば、
・現代においては小さな彫刻として鑑賞の対象になっている
ということを最後につけて根付の説明を終えます。


そしてこの特徴、実はストラップでは真逆になります。

ストラップについて

ストラップについては多くを説明しません。ここでは「携帯電話にぶら下げるための用途不明のアレ」で理解してもらえると思います。
ところで、「ストラップ」を直訳してしまうと、「ひも」という意味くらいにしかなりません。
覚えている方も多いと思いますが、携帯ストラップも初期のころは「ひも」でした。わかりやすい例えかはわかりませんが、カメラ、特に小型のカメラについているストラップを思い出していただくとわかりやすいと思います。つまりカメラのストラップも、携帯の初期のストラップも、元々は紐に手を通しておくことで不意に落としたりすることを防ぐためのただの「ひも」でした。
その紐に、何かのマスコット的なものが付き、あげく紐自体が用途と共に姿を消してしまったのが今のストラップです。今や携帯ストラップの紐は携帯とマスコットをつなぐものでしかありません。
そしてそのストラップの形態についてまとめると根付との違いが浮き出てきます。

・硬軟質素材でできているものが多いので形は様々で傾向と呼べるような特徴は無い(細くても、角があっても折れたりしない素材)
・本体に埋め込まれた金具によって紐と直接つながっている(脱着不可)
・ストラップマスコット正位置に対して紐が上(携帯からぶら下がっている)

そして鑑賞目的でのストラップについてですが、コレクション性がないことはないし、鑑賞目的で使用する人もいないとは言い切れないが、その直接付いた紐のために鑑賞するには難がある、と言わざるを得ないのではないかとワタシは考えています。

そして最後、根付ストラップについて

先ほど言ったように根付ストラップはワタシが勝手に作り出したものですので、その制作コンセプトはひとこと、

「根付とストラップのいいとこどりをしよう。」

これのみです。
現代において、江戸時代のそのままの用途で根付を実際に使っている人はごく少数派です。ですから使ってもらうことを考えたらストラップのほうが断然良いです。
逆に鑑賞目的やコレクションとして楽しんでもらうことを考えたら、それは根付のほうが有利です。やはりいちいち紐が付いているのは鑑賞には向きません。紐を外しても金具がついていて、金具を外せば少なくとも不自然な穴が残ります。
だったら形態は根付で鑑賞もでき、紐はあとづけ、通すための穴は自然な感じに空いているか見えない位置に空いている。そして紐を付ければストラップとして使える。
と、そんな根付とストラップのいいとこどりをしたものが根付ストラップなのです。

造語としてはただくっつけただけ、意味としてはめちゃくちゃなのですが、シンプルに言い表すとすればこれ以上はないと今でも思っています。
なのでワタシがブログでもサイトでもイベントでもいちいち根付ストラップと書いているのは、根付でも、ストラップでもない、これは根付ストラップなんだ、という変な自負があるからなのです。
根付がストラップの上位カテゴリーではないように、根付ストラップも根付に対してもストラップに対しても並列であると思っています。

まぁ、使っていただいている方、飾っていただいている方、集めていただいている方にとってはどうでもいい話です。
というか、手に取った人によって用途や見方が変わる、ワタシ自身は強く何かを強要しないというのがワタシ自身の作品へのコンセプトでもあります。
それはたぶん生き物という非常にうつろい易い不確かなモチーフをあつかっていることから来る、ワタシ自身への戒めなのかもしれません。

確かなものなどなく、すべてはゆらいでいるのだと。


根付ストラップについての指針と私信〜その2〜

※守亜さんは現在(2013年)、原型を粘土などでつくり、型をとり、樹脂で複製する方法で主に制作しています。
(中には、金属を用いたものもあります)
その「根付ストラップ」の制作についての文章です。

今回は「根付ストラップの生産について」

根付ストラップは原型からゴム型を作って、そこにレジンを流し込んで作ります。
イメージとしてはこんな感じ。

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この画像の型だと、一回レジンを流すと3種類の根付ストラップが一度に複製できるという仕組みです。
それを、複製業者に出すときは20種類以上の原型を一つのゴム型に埋め込んで生産してもらいます。

なぜ20種もの原型を同時に複製してもらうかと言えば、理由はシンプルかつ明快で、「1個当たりの原価を下げるため」に他なりません。
実際にやってもらったことはないのですが、1種類の根付ストラップ原型でゴム型を作ってもらって複製業者さんに複製してもらうと、生産する数にもよりますが、原価で1個数千円になってしまうものと思われます。

それではさすがに高すぎるので、20種類の原型でゴム型を作ってもらい、ゴム型の限界(通常50回前後)まで複製してもらうことで、1個数百円にまで原価を下げています。

なので、もし1、2種類売り切れてしまってもそれだけではゴム型は作れません。その1、2種類に加えてあと10種類以上は一緒に複製する原型が欲しいところです。
さらに言えば、いくら人気があるといっても完売前と同じ数の在庫をストックすることになるため、よほど自信があるものでないと、再販する気にはなれません。

そんなわけで、1、2種類とはいえ、むしろ1、2種類だからこそ再販へのハードルが高いのです。

あとは、正直気持ちの面から言えば、再販するよりも新しい原型を作りたかったりするのです。
自分の作った原型なのでもちろん愛着はありますが、結局は過去作です。一度作ったモチーフでも「今度はああしたい」とか「次はこうしよう」とかアイデアが出てきちゃいますので、気持ち的にも再販するよりも新しい見せ方で作りたいというふうに考えてしまします。
たぶんそれが、再販に際しての一番のハードルだっりするんですね、好きなモチーフは何度でも作りたいので。
  1. 2013/06/09(日) 16:34:04|
  2. 守亜(群馬)