根津の根付屋 & Gallery 花影抄 blog

東京・根津にある主に現代根付、立体作品をご紹介しています、Gallery花影抄のblogです。展覧会や取扱作家情報などを発信しています。

古希の遊び 個展を終えて

2013.5.7(火)〜5.12(日)までの6日間、
「齋藤美洲展 NETSUKEISM 〜制約の中の自由〜」を
銀座・ミーツ・ギャラリーにて開催し、会期を無事に終えることができた。

今回個展は、私一人の力ではとうてい出来得なかった。
手伝って下さった皆様…心の応援をして下さった方、
会期を通じて様々な御意見を下さった方々、
花影抄スタッフの方々に心から感謝の気持ちと御礼を申し上げます。


現在、または瞬間とは、存在しえず、未来と過去との境界線にしかすぎない。
故人の曰く、人生とは破れ板戸の隙間を白馬が駆け抜ける如しとか…。

古希を過ぎ、振り返るとなんと過去の膨大さに驚く。
こと、根付彫刻に関しては、興味を抱いた少年時代から半世紀以上にも成るが、
様々な記憶は、各年代を引出しても昨日の様に思い起こす事が可能な鮮明さが有る。

親兄弟に逝かれ、彼等より長く生きて居る身にとって、
長命であった心の師を指針にすべく、70才の遊びとして、個展を思い立った。

私の考える個展とは、例えば『噺の中の筑波山のガマ』。
上下四方、鏡の部屋に入れられ、己の醜さ(未熟さ)に脂汗を流すものだと。
しかし、その油汗が薬効となるが如く、自身の為にもなる。
そんな思いで、個展に際して、私なりの目標を持つ事とした。

根付の基本は彫刻であるとの主張を、自ら実証する為に、自作を拡大制作し、
それがオブジェ彫刻として受け入れられるかを世に問いたかった。
50年にもなる根付彫刻活動においての一貫性を、自身で確認するため。
間違って居たとすれば、恐い事になるだろうが…。
以上、二つの目標を掲げた。

会期中には、多くのジャンルの方々の来場に恵まれ、多彩な意見を聞く事が出来た。
根付とオブジェとの展示に、違和感を覚えさせないかとの危惧が杞憂であった事に安堵した。
根付との並列に違和感は無かったようだ。

「オブジェを先に作り、根付に戻すのか?」という質問が複数あったが、
逆であり、根付彫刻が如何に全方位の創作を必要とするかという私の説明に
「根付に対する考え方が変わった」との感想も聞かれた。

写真

中には、展示中、全作品を掌中にて鑑賞して頂いたのと同様に、
オブジェに対しても「触れてよいか」との要望があり、
その人にはこのオブジェにも根付同様に触れて温かさを感じたいとの感想も頂いた。
これも複数名の方が居た。

彫刻家の人達から、受けると思っていた酷評は与えられなかった。
私は大小の彫刻作品の内、根付程、全方位で作品を凝視される彫刻は無いと主張する。
故に拡大しても根付は彫刻として成立し、それの持つフィーリングは伝わり
大小の差無く鑑賞されるものと実証されたとの感を深くした。

私の「根付観」に間違いは有るかとの私の問い掛けには、多くの方が答えてくれた。
暗闇の中をコンパスも無く勘のみを頼りに歩いて来たが、
今回明確な指針を得た感が有る。古典風表現の作品に対して、コレクターから
「古典を理解して居るからこそ、表現の斬新さがうまれるとの言葉も得られた。

特筆すべきは「月刊美術」において、多摩美術大学の本江教授との対談の機会を得た事である。
長い間、主張し続けながら、理解、同意を得なかった私の根付論が、異論なく同調された。
会話のキャッチボールの響きの心地良さを堪能した。
誰が喋ったかを消去し、多少の編集を加えれば、客観性を持った現代根付論が出来ると思われる。
この事の詳しい文章は次のブログで書けるのを楽しみにして居る。

加えて、西洋美術史を専攻されている方が「月刊美術」を読まれて来廊され、
日本と西洋美術との接点と差についての会話が出来嬉しい時を得た。
氏は御自身も根付を所蔵されていると聞き、向後の展開が楽しいものに成りそうだ。

等々、会期を充実して過ごす事が出来た。
又、朝日新聞に、埼玉、東京版2つに掲載された事によって、数多くの来廊者が
有り、多少の根付の宣伝に寄与できたのかと思われる。

個展を終了して三週間。
すでに過去の事。事後の興奮も収まり、私の得たものは何かと考えている。
求めたものは実益ではなかったのが幸いして、無形のものを得たと体感する。
それは、過去の暗闇のコンパスは、多々有った人生の難局にも狂う事無く、
目指す一点を指していたと思われる。
この大きな収穫が私に、日々の仕事の充実感と生きる満足感を味わわせてくれて居り、
明日への仕事の展開に希望を持たせてもくれて居る。

得る事は失う事であり、逆も真とは、私の精神的師、荘子の言であるが、
今回得た何かに喜んでいるが、失ったものとは何であろうかと並行して模索している。


齋藤美洲
  1. 2013/06/06(木) 12:00:00|
  2. 齋藤美洲(埼玉)