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根津の根付屋 & Gallery 花影抄 blog

東京・根津にある主に現代根付、立体作品をご紹介しています、Gallery花影抄のblogです。
展覧会や取扱作家情報などを発信しています。

作家便り「12年10月/森栄二(葉山)」

蝉の鳴き声がしません。

あのいつまでも終わる事がないように感じられた耳鳴りのような無数の蝉たちによる
ささやきも、今はざわざわと木の葉がぶつかり合う風の音に移り変わっています。

ついそこまであった夏が終わってしまったことで、ぼくは少しホッとしています。

夏が嫌いなわけではありません。むしろ好きな季節は?と聞かれれば「夏」と答えると思います。
夏に対する憧れは、住むところや物を創る上での出発点になっていると言えます。
しかし、夏の終わりの言いようのない苦しさも、小学生のころから毎年変わることがないのです。

それはもう解けない呪いのように8月の半ばから聞こえ始めるツクツクボウシの声によって
意識され始め、広がって行きます。その時期のぼくの心持ちがあまりにも毎年繰り返される
ために、あのとても奇妙でリズミカルな鳴き声も、気付いた時には反射的に何か憂鬱なものと
感じ取ってしまうようになっていたのです。

宿題を早めに済ませればいい。苦しさを解決する一番の方法はこれしかない。
学校に行っている時はそう思ってきました(これは全く身に付かなかった)。
しかしどうもそれだけではないようです。最近よく考えます。

この心持ちというのは、夏という季節が抱かせるなんだかはっきりとしない、しかし強烈な
期待感の跳ね返りだと思うのです。

ツクツクボウシの声は、多分、頂上を超えて下り坂が始まる合図です。
終わりが見え始めて鳴らされる鐘です。今ではその声によって、夏以外の季節、つまり一年を通して
いやもっと過去に遡ってやり残しているたくさんの事までが大きな塊となって意識の水面の上に徐々
に姿を現し始めるのです。
 
しかしもう秋です。夜聞こえる虫の声も、落ち始めた葉っぱのカラカラいう音も、意識の水面下に
隠れ始めた塊を持ち上げるものではありません。 



 
 ん、まてよ。まだ何処か遠くで蝉の声が聞こえる...
 morieiji_121014.jpg

2012.10月 森栄二

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  1. 2012/10/14(日) 16:11:52|
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