私の嫌いな松の内も早や過ぎ、今や大寒。
未明のだれも来て居ない小公園の霜柱を、幼な心を持って一直線に
靴底の感触と、心地良い音を楽しみながら付けた足跡の快感に、
今日も生きる事を認識する。
世間では、終活なる言葉が話題に上がっている。所謂、年長者の
身辺整理の事だが、老物作りにも、別の意味で必要な事と思われる。
長い歳月、仕事をして来た者にとって
自分は何を求めてきたのか?
求めるものを理解し得ているのか?
未だ解らず としたら何をすべきか?
これらの問い掛けに、確信を持って頷ける言葉と世界を持ち得る事が
理想だろうし、やらねば成らぬ事だろう。
自分の過去作品を持って、それを答えとする事は不可である。
否、出来るとすればその人の現在は現役の作家では無く、
過去の自分の模倣者か、単なる引退者に過ぎない。
持論、老人の技量は(私も含まれる)若い頃には及ばないであろうが
テクニックを越えた向こうに、根付の神髄、すなわち作家の目指す
何かが有るというのが考える由縁である。セザンヌより始まった、
近代美術の先駆者達の多くが、その卓抜とした技術で表現せず、美の
心理を追求したものに似ているのでは無いだろうか。老齢と云えども、
指針とすべき所は数多く存在すると思われる。
私は、数多くの先生方を見送って来た。先生方の生きた様子を姿を
思う度に、私はこれよりどの様な生き方をすべきなのかを自問する。
脳裏に浮かぶのは、父の、一郎先生の、雅俊先生の、黙々として、
冴えた小刀の音と共に仕事をする後ろ姿である。
さて次に今年は私自身、どの様に行動するかを考えた。
前述した如く、私は美洲根付を如何に創り、それによって如何に自分を
客観的に見つめて、自己発見する為に、如何なる心構えをすべきかを
考える(新年の禁煙決意に似たものになるか知れぬが…呵呵大笑)
使える根付である事
云うまでも無く、根付は使用する目的で作られる彫刻品で、それを
外れたら単なる小彫刻である。だからこそ使われると云う制約の中
に、自然な自由さを表現してこそ、根付と云える。
古典よりの流れを意識する事
私は江戸期根付を範として敬愛して居る。西洋デッサンを学んでしまった
私に取って、江戸の風情を表現する事は難しい限りではあるが、江戸を
心の古里に想っている。
オリジナルである事
根付にせよ、浮世絵にせよ、江戸期の作家は個性を強調させ如何に他と
差別化させるかに腐心したかが見て取れる。それこそが江戸期の作家の
見せ所である事を私は心する。それには数多くの古典根付に接する事が
必要。学ぶとは、見た、知ったと云う事では無く、良いと感激した根付
を範とするとの同時に、何故感激したのかを自分自身に問い、自分の
感性に問い、自己発見の道標とするものと思う。観る作品の多さは、
感激し作品の対比材料になる。根付の世界とはモチーフを3Dプリンター
の如く写実化するのでは無く、この作家はモチーフに対しこの様に
インプレッション(感動を持った印象)を得たのかと、人に感情移入
させるARTであると思う。
小刀、ヤスリ作業を行き届かせる事
根付のフォルムの美しさは、ヤスリ、小刀の作業に生まれる。リューター
と云う電動工具は、形を出すに最適であるが、形を出した後に作る者は
すぐに仕上げたくなる落とし穴がある。小刀、ヤスリで美しい曲面を
作らない限り、磨き作業では、それが出せない。巧者と、そうでない作家
を比べると、小刀、ヤスリの作業時間と荒彫りの時間比率で解る。かつて
中村雅俊先生とは親しく、お付き合いさせて頂いた。その間、先生からは
「こうしろ」と指導された事は無い。只、「納得の行くまでやる事」と
云われたのが、唯一の教えられた言葉だった。しかし、これ程、恐ろしい
言葉は無いと思われる。私が納得したと思う作品は、先生に「お前の才能
はこれくらいかェ」といつも云われている様な恐れを感じている。

より多くの作品を見る。語る。
以前、根付界において、蒐集家、作家、商人、いづれの人達にも根付を
美術的観点から語る人は少ないと書いたが、私もその一人で有る事を
痛感した。川口市立のアートギャラリーにて、川口市の匠を毎年テーマを
持って展覧会が行われていて、その会合に出席した。市教育委員会を始め
ギャラリースタッフ、匠達との十数名と話をした。匠以外は皆美大出で
実技も有り、学芸員クラスの人々であった。根付を説明するに一応は
理解されたが、自分の論理の一貫性、臨機応変な会話力の無さに、
汗ばむ思いがした。以後、数多くの名品を見る機会に接し、論理的に
それを評論出来る様になりたいものだと反省しきり。
巷は屠蘇気分の徒然草
- 2014/01/31(金) 17:26:33|
- 齋藤美洲(埼玉)
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昨年10月末に、東京国立博物館小講堂にて東京女子大学の社会学科同窓会の
方々の勉強会の一環で、齋藤美洲さんが根付についての講義をしました。
今回、同窓会のwebサイトに報告としてその様子が掲載されました。
http://www.twcu-alumnae.jp/activities/og/index.html社会学科の方々の集まりssセミナーについて
http://twcu-alumnae.jp/activities/pdf/201312ss.pdf齋藤美洲さんの講演についての報告

講演中の美洲さん。
- 2014/01/31(金) 17:15:06|
- 齋藤美洲(埼玉)
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「高円宮家根付コレクションと高円宮妃殿下野鳥と旅の写真展」に合わせて
「伊勢の根付展 常若~受け継がれる技~」が、2日より2月4日まで開催しています。

全作品数が83点、最初は一人10点と言ってましたが、会場の関係で多くて一人8点となりました。
高円宮の根付コレクションにも入っている伊勢根付最年長の河瀬欽水先生を始めに、
阪井正美先生、中川忠峰先生、森本節治先生、そして花影抄でのみ作品を発表してる僕、
高島屋などの展示会に作品を出してる神立る峰さん、石井夢峰さん、以前は頻繁に花影抄に作品を
出してた葭夏月君、キャリアは永いけど今回初めて作品を販売する浦洋行さん、今回初めて
作品販売する若手の横山大真君、平泰平君、梶浦明日香さん、山河峰理さんの作品が並びます。
諸先生方の根付の作品は多くの展示会や作品の図録に掲載されていて根付を知る方は目にした方も
多いかと思います。諸先生方の根付は各々に雰囲気が確立されていて作風でどの先生の作品か分かる
かと思いますし、格下の僕には何も言う事などありません。
神立さん、石井さんは高島屋の展示会で作品を発表してる言わばもうプロなので、やはり出してる
作品のクオリティは高いかと思います。浦さんは今回が初めての作品販売になりますがキャリアも
僕よりずっと永く上手い方です。葭君は僕から見れば僕より才能があると思うのですが、以前は
花影抄に作品を出してたけど、最近はあまり作ってないみたいで今回の展示会を期にまた作品の
製作に励んでくれたらと思うばかりです。
若手の4名ですけど、今回が初めての作品販売ですので、これからの成長に期待したいです。
ただ厳しい事を言えば、今の段階では今ひとつ何か足りない、まだまだディティールの甘さが
気になります。もっと造形に対する観察眼、物に対する観察眼を持って貰いたく思います。
技術の及ばない物を作ろうとせず、先ずは古典の模刻をやり、作っては反省をし、反復して
作ってくれたらと思います。数を作らないと技術は身に付きませんけど、反省せず数作っても
技術の向上は望めないと僕は思うのです。(天才、あるいは自分に才能が有ると思う方はこの限り
ではありません。現に僕が何年も掛って出来た事をいとも簡単に出来てしまう人はいます。
僕の様に才能が無い人間が技術を身に付けるには数と反省と観察眼を鍛えろという事です。)
僕個人の考えは、先ず基礎基本の技術・形を習い覚え、次にその応用変化(アレンジ)を習い、
そして自由自在に作れる様になる。と段階を踏む方が基礎技術も未熟なまま自分の好き勝手に
根付を彫るより早く技術力が上がると思うのですが…。
もうひとつ、一抹の不安が…今根付を作ってる若手の方達は伊勢近郊以外の地域から中川先生の
元に根付を習いに通って来てますけど、伊勢近郊の人がいません。伊勢根付の技術を若い世代の人に
受け継がれる事はいい事ですけど、このままだと伊勢近郊に伊勢根付が残らないのではないかと危惧します。
できれば伊勢近郊の若い世代の人が伊勢根付に興味を持ってくれる事を希望します。
- 2014/01/26(日) 13:35:50|
- 紫苑(伊勢)
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三重県菰野町に有る岡田文化財団のパラミタミュージアムにて、1月2日から2月4日迄、
「高円宮家根付コレクションと高円宮妃殿下野鳥と旅の写真展」が開催されています。

根付等の作品313点、旅する根付と野鳥の写真作品66点に十二単などの宮中装束も併せて展示しています。
古根付、現代根付、印籠、緒締のほとんどは「現代根付高円宮コレクション」と「根付高円宮コレクションⅡ」に
収録されている作品ばかりで、特に僕が好きな古根付の「酔いどれ狸」や「胡瓜に河童」があれほど小さいとは
思ってませんでした。
現代根付の仙歩さんや柳之さんの作品他、驚きやら、感動やらと大変勉強になりました。
いろいろな作家の作品がこの三重の地で見れる事は有難い事です。
ただ惜しむらくは、何点か見所で有る部分が正面を向いてなかったのが残念です。
根付に詳しくない方が展示されたのだろうから仕方のない事ですけど…。
- 2014/01/26(日) 12:57:27|
- 紫苑(伊勢)
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紫苑です、今年も宜しくお願い致します。
昔から正月に注連縄を玄関先に飾りますよね?(最近はしない家もありますけど。)
伊勢では一年中飾ったままにするのですが、(伊勢市辺りのみで松阪市はしないらしいです)
注連縄を作る父が亡くなったので買って来ました。

「笑門」の札…。う~ん…なんか落ち着かない、違和感がある…。
以前、父が作ってた注連縄には、「蘇民将来子孫之家」脇には、七難即滅、七福即生。
裏には、安倍清明の印のセーマンと蘆屋道満の印ドーマンを書き、「急急如律令」と書く、
此れがウチの家の注連縄でした。
伊勢形の注連縄は、この形が古くから伝わる形なので、やはり「笑門」には馴染めないみたい…。
それにしても、セーマン、ドーマンに急急如律令って、明らかに陰陽道の流れの物ですよね~。
「蘇民将来子孫之家」もスサノオノミコトの神話が元になってるし…
来年はやはり「蘇民将来子孫之家」の札にしょうと思いました。
やはり伊勢の血が流れているのだと感じた正月でした。
- 2014/01/26(日) 12:15:25|
- 作家
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本日よりGallery花影抄では森栄二展「私の庭」を2月2日(日)まで開催いたします。

木彫作品の新作は3点、他ドローイングが並び、Gallery花影抄では
珍しく平面作品の多い展示となります。森栄二さんの独特の色使い
のドローイングを楽しんでいただければ幸いです。
また、作家在廊につきましては、
ギャラリーtwitterでつぶやいてまいります。
みなさまのお越しを待ちしております。
森栄二展 「私の庭」2014年1月25日(土)~2月2日(日) ※30日(木)休廊
13:00~19:00(最終日~18:00)


- 2014/01/25(土) 11:33:21|
- 森栄二(葉山)
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こんにちは。かわさきみなみです。
毎日、空気が痛いほど冷たい!
外に出るとき手が冷えやすい私は 極厚手袋が必須です。
毛皮を着た我が家の犬は 意気揚々と散歩にでていきますが…
1月でこんなに寒くてこれからくる2月は どうなってしまうのか心配になります。
そんな寒さにやられて、年明け早々インフルエンザにかかってしまいました。
高熱(39.9度!)を出したのは10年ぶり…?というくらい久しぶり。
頭痛もひどくて、横になっていることしかできませんでした。
体調を崩すといつも思いますが、健康は大事ですね…。
でも熱で何もできないからこそ、
感じることができた感覚もありました。
点線以下の文章はその時に書いた日記です。
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夜中、眠れなくて、
でも頭が痛くて何もできないので
暗い部屋の中で見えてくる形を探す遊びをした。
この遊びは気持ちが静かになる遊びだ。
カーテンの隙間から入った光が
壁に当たってできる形。
少し開いているドアがつくる影の形。
本当の形の中に、浮かびあがる別の形。
それを見るのがおもしろい。
(2014,1,8)
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暗く、音もない部屋でぼんやりと見える形をじっと眺めていると、
自分の部屋ではないどこか広い場所にいるような感じがしたのです。
私が最近作品で形にしたいと思っているイメージは、こんな感覚だと、
熱で頭がぼうっとしながらもそう思いました。
"本当の形の中に、浮かびあがる別の形"という言葉も
これから作る作品のキーワードになりそうな気がしています。

- 2014/01/24(金) 12:00:11|
- かわさきみなみ(千葉)
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来週25日土曜日より、木彫家の森栄二さんの展示が始まります。
森栄二さんは葉山のアトリエで日々ドローイングを描き、そして木を彫っています。
ギャラリーブログでも葉山便りを時折届けてくださいますが、
森さんの言葉は詩的でそして少し儚く、しっとり湿っているように感じます。
それに反し今回展示するドローイングから受ける印象は、はっとするような動きや
表情をしている小さい子。そして、パステルの鮮やかな色にも強いものを感じます。

ドローイングは日々、本人の内側を探るように描いている作業。
「子ども」である理由は子どもが好き、だからではなく、森さん自身を掘り起こす
ことのできるものが子どもであるからなのだそうです。
森さんは日々どんなものを掘り起こしているのでしょうか…
今回の展示では約30点のドローイングと木彫作品が並びます。
森栄二展 「私の庭」
2014年1月25日(土)~2月2日(日) ※30日(木)休廊
13:00~19:00(最終日~18:00)
ドローイングを選んでいる森さん。

- 2014/01/19(日) 20:04:35|
- 森栄二(葉山)
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あけましておめでとうございます。
本年も何卒宜しくお願い申し上げます。
2014年の最初のイベントのお知らせです。
Gallery花影抄の週末作家在廊イベント、2014年の最初は「生き物系造形作家」守亜さんです。守亜の「熱帯世界と伽哩世界」日時:2014年1月11日(土)、12日(日)
13時~19時
メインイベントは、守亜さんの昨年一年間に制作したいろいろな作品をズラリと並べる展示。
2013年に制作した立体、平面作品をずらりと並べます。
・ニホンイシガメ
・フタユビナマケモノ
・ミユビナマケモノ
・アイアイ
・ベローシファカ
・ニホンアマガエル
・ワニガメ
・玄武
・インドガビアル根付
・ナイルワニ根付
・ガルーダ根付
・鳳凰根付
・グリフォン根付
各種、根付ストラップ
裏のイベントとしては、ひたすら「趣味のカレー道」を追求している守亜さんが、
作品を会場でお買い上げくださいました皆様に、味見程度ですが「自分が作ったカレーをご馳走しよう!」というカオスな企画となりました。
(お正月の おせち料理に飽きたところで、ちょっとカレーはいかがでしょう?という一風変わった趣向です)
守亜さんのブログ「アクアプラントジャーナル」にも詳細がでておりますので、こちらも御覧ください。
皆様の御来店をお待ちしております。
何卒宜しくお願い申し上げます。
- 2014/01/06(月) 17:52:42|
- 守亜(群馬)
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