
カタクラケンタ個展 彼我の境
2022年2月23日[水]~27日[日]
Gallery花影抄
おかげさまで会期を無事に終了いたしました。
オミクロンの混乱期の中での開催でしたが、御来場をくださいました皆様、本当に有難うございました。
いつものスケジュールよりも短い展示期間でしたが、充実した濃い内容の5日間になったと感じております。
作家共々、皆様に感謝を申し上げます。
今後とも何卒宜しくお願い申し上げます。御来場の方々やメールなどでやりとりさせていただいた方々とのコミュニケーションの中から、あらためて「現代根付とは?」という問いかけを自問自答しております。(今後、カタクラさんとも展覧会後ミーティングの中で問答をしてまいりたいと思いました)
伝統的な根付の在り方、現代の美術工芸界の中での根付の在り方、それらを視野に入れて今と未来を考える根付の在り方を考えることはとても面白くやりがいの湧いてくる事柄です。
自分の中での自問自答をいくつか書き出してみます。
『現代根付』 の一つの価値観に、作家が考え抜いた後に生み出される高い次元まで凝縮された作品(根付)であるという事があると思います。細密な彫刻・複雑な構図などによって物語や風景、言葉遊びや哲学や価値観やメッセージなど、大きな情報が小さな作品に盛り込まれています。たとえシンプルな構図であったとしても深い思想や想いなどが込められていることもあるでしょう。それはもはや実用の必要条件を遥かに超えた内容となっていて、だからこそ、そこに蠱惑的な強い力が生まれる。しかしながら、そのような強い力を内包する作品であればあるほど、日常的には実用される場面は少なくなっていく、実用に向かう力は小さくなっていくのではないかとも考えられます。
古典の根付の中にも様々な内容や質のものが現代根付以上に無数にあるわけですが、多くの古い根付は実用のために生みだされたものでありシンプルな図像です。提げる物や着物との兼ね合いで単体では単純な図でも良かったという理由もあると思いますが、作り手はなるべく深く悩まずに効率良く職人としての仕事を進める努力をしたかもしれません。
実用から発展進化した根付が美術工芸品として市場を獲得していく中で、変容していき、実用のための根付ではなく美術工芸品としての要求が次第に大きく求められるようになり、そして「現代根付」につながってきたという理解です。今日的な高度な「現代根付」は、「根付」を超えた存在なのだと考えられます。単にポケットの代わりとなる袋を帯から吊るすために作られていた道具が、そんな凄い存在にまで昇りつめてきた歴史を考えると、本当になんとも言えない感動があります。
一方で、今日の日常生活の場面でも普通に身の回りに置いてもらえる使ってもらえる根付作品というのも素敵なことですが、そちらのほうがむしろ今は難しい事のように感じています。
先日、カタクラさんの展覧会場に来てくださった現代根付作家のお一人との対話の中で、興味深い内容がありました。今回の展示は抽象的な造形作品と根付作品の2つの表現を左右の展示台に分けて置いてあり、一見すると双方無関係に見える展示でもあります。テーマに「境界」を掲げていることからも、その境目をどう考える?という展示内容でもありました。抽象オブジェの作品には作家の思考や思想を含んだ内容が込められていることは見て取れ、根付のほうはシンプルな造形です。しかし双方が同時にあることが重要で、ぱっと見て様々な内容を含んでいると受け取れるオブジェを見て、そしてシンプルな根付を見るから、シンプルな根付の背景にも思いを巡らせ考えてもらうこともできるのではないか?だから2つがあることが大事だというご意見でした。一見するとシンプルで使いやすい根付が、しかし何かの意味が込められてもいる。。。そういう在り方も可能なのではないか?と思いました。そのあたりになにかヒントがあるような気がしております。
また別の現代根付作家の方との会話では「現代根付も古い根付も同じ根付でそこに境界は無いはず」との言葉もいただき、それもそうだとも思い、そうすると堂々巡りなのですが、いろいろな方向からのご意見や見え方をお聞きできて、今後のヒントを得られたように感じております。
(花影抄/根津の根付屋 橋本達士)
- 2022/02/27(日) 22:36:07|
- カタクラケンタ(千葉)
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カタクラケンタ個展 彼我の境2022年2月23日[水]~27日[日] ※会期中無休
13:00〜19:00(最終日〜18:00まで)
Gallery花影抄
展覧会webページ Gallery花影抄webサイト内
【作家の言葉 カタクラ ケンタ】 今回の個展では、新作の根付彫刻5点と抽象造形作品5点を発表いたします。
共通して立体という表現ではありますが、具象的である根付彫刻と抽象的なオブジェクトが並ぶ2人展のような展示となります。
その両方ともが紛れもなく私の作品であり、扱うテーマも生と死、過去と未来、記憶と忘却など、対極にあるとされる意味合いが作品ごとに入れ替わっていき、それゆえ展示空間は多くの矛盾を孕むでしょう。
その二元論的思考から生まれる矛盾のなかで、境目はどこなのか、溶け合える点は存在するのか。
そんな有るかもわからない、有ったとしてもきっと真っ直ぐではない境界線を見出せないか、という意味を込め「彼我の境」というタイトルとしました。
コロナ禍の落ち着きもまだ見えぬ中での開催となります。
直接のご来廊・Web上での鑑賞問わず、多くの方にご高覧いただければ幸いです。
[ 新作根付作品のご紹介 ]1 根付 「漂う記憶」
メープル(スタビライズド加工) 4.3×3.6×2.4cm



オウムガイは「生きた化石」と呼ばれるように太古からその形態を維持したまま現代に生息しており、その遺伝子には太古の海を漂った先祖の経験が織り込まれています。また、我々が生きる地表の下には地層が幾重にも存在し、その偶然性を伴う重なりを古代から続く地球が変化してきた星の記憶と捉え、両者を結びつけるところから制作を開始しました。お手元で太古からの記憶に思いを馳せていただければ幸いです。(カタクラ ケンタ)
2 根付「蛹化 二〇二一年十二月」
黄楊 5.2×2.3×2.0cm
(展示台座が付属します)





「蛹」というと一般的に新たなスタートや成長を思わせるポジティブなメタファーとして扱われますが、実際の生態に着目すると (スズメバチだけに限らず )どんな昆虫でも孵化・羽化に失敗し、命を落とす個体が存在します。私も常日頃から自身の成長を願いながら制作していますが、障害の無い成長など存在せず常に危うさを伴う事を意識させられるモチーフだと捉えています。(カタクラ ケンタ)
3 根付「潜る小判」
榧(スタビライズド加工) 4.3×3.3×1.9cm





この作品のモデルはコバンムシという水生昆虫で、日本では関東近郊から以南で絶滅危惧種に指定されつつある虫です。生物の記録がデジタルデータを主として保存され記録されていく昨今ですが、あらゆる記録に絶対は無くそこには常に忘れさられていく事の恐ろしさが側にあると考えます。「水底に潜って二度と見られなくなる前に …」そんな言葉を零しながら制作しました。(カタクラ ケンタ)
4 根付「拳固」
栃(スタビライズド加工) 4.1×3.6×2.8cm





握った拳のような見た目から名付けられたコブシガニという生き物がモチーフです。甲殻類を制作する際に鋏を合わせるような構図を作ることが多いのですが、ヒトで例えると手を合わせるような仕草を思い描いています。今作では殊更に座禅を組んでいるような、はたまた祈るような出立ちとなりました。改めて完成した作品を振り返ると「握るべきは拳ではなく掌だ」そんな言葉が頭をよぎります。(カタクラ ケンタ)
5 根付「溶けゆく境界」
メープル(スタビライズド加工) 4.2×3.3×2.3cm






現在でも地方によって名称が異なり、どこまでの生物を含めるかという生物学的区分も未だ曖昧なウミウシという生き物がモデルです。甲殻類や昆虫と同様にウミウシも表情がほぼ無い生物で好きなのですが、作品にすることで意思みたいなものを宿したいと考えています。肉体の境界線を自認しながら崩していこうとする様を自分自身になぞらえ、丸まろうとするような構図としました。(カタクラ ケンタ)
[ 新作 抽象造形作品のご紹介 ]連作「終わりへのスタディ」 このシリーズは自身に必ず訪れるであろう ”死 “に対し、その恐ろしさを和らげるというテーマから制作を開始しました。美術史を紐解いてみるとメメントモリ (ラテン語で「死を忘ることなかれ」という意、今生を楽しもうという趣旨にもとれる )という言葉が存在するように、「生と死」にまつわる主題自体は現代に至るまで語り尽くされているのでは?と思えるほどに多くの作家達が扱ってきた人類に共通する普遍的なテーマと言えます。そこにあって自身がテーマに扱う動機として、人類全体がどうと言うよりもまず制作行為を通して自身が抱える漠然とした死の概念を補完することとしました。死の受け止め方に対する観念を充実させるのは宗教や哲学の役割でもあると考えているのですが、決して信心深くもなく主義思想も希薄な環境で育った自分にとって日々の生活の中で死を意識させられる印象深い物と言えば桧で出来た仏壇といった形式的な仏具しか存在しませんでした。後に勉学として哲学にも触れますが、どこか当事者性に欠けるような印象しか持てず現実感に結びつかなかったと記憶しています。一連の作品はそんな精神的な寄る辺を持たない自身がどうしようもなく迫る死に対して、そのものを捉え直す事で少しでも安らかな終わりを迎えられないだろうかという試みでもあります。作品の土台にあたる部分は生物が倒れ伏している姿や折れた樹木であったり加工された肉としての姿などを抽象的に造形しており、各作品はそんな骸を模した土台から分裂する細胞のような節を広げ、周囲に記号的な形状の突起を伸ばしています。それらは土台と突起物の関係や「魂の所在」「肉の記憶」といった副題とともに複数の側面から死という事象に対する問いを投げかけます。個展「彼我の境」の開催にあたり、工藝・民藝の文脈を組みながら生物を主なモチーフとして具象的な表現で発表している根付彫刻の対比として、死の概念にアプローチする抽象的な立体造形作品を置くことで自身の表現における境界をも探るような展示としました。(カタクラ ケンタ)
6 終わりへのスタディ 「報せ」
桧 16.5×13.0×12.5cm

7 終わりへのスタディ 「魂の所在」
桧 11.5×11.5×6.5cm

8 終わりへのスタディ 「サイクル」
桧 13.7×12.0×7.0cm

9 終わりへのスタディ 「野生の余韻」
桧 12.7×11.2×8.0cm

10 終わりへのスタディ 「肉の記憶」
桧 14.0×10.5×4.7cm

※お問い合わせは、Gallery花影抄/根津の根付屋 までお願いします。
電話・FAX 03(3827)1323
メール mail@hanakagesho.com
- 2022/02/23(水) 19:33:55|
- カタクラケンタ(千葉)
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皆さま明けましておめでとうございます。作家のカタクラです。
遅ればせながらのご挨拶ですが、本年もよろしくお願いいたします。
年越しを振り返ってみると実家関連でばたばたしたり風邪を引いたりと
未だに現在進行形で落ち着きのない日々を過ごしております。
また新型ウイルスによる感染症なども流行っているニュースを目にするようになりました。
個人的な医療関係の友人からもやはり「手洗いうがいは本当に大切」と聞きますので、予防に努めたいところです。
ここ最近なにをやっていたか?というと昨年の在廊企画〜年末あたりを皮切りに
「100年残る作品、100年残る仕事」という事について考えあぐねています。
「下手の考え 休むに似たり」とはよく言ったもので、
間違いなく考えこむより作品を作ることを優先すべきではあるのですが、
自分がどう作品を作っていきたいか、どうすれば遺せるのか、といった部分に
常に自覚的でなくてはいけないのでは?と考えるようになりました。
きっかけは仲良くさせていただいてる作家さんとのフランクな場での話だったのですが、
自身の制作活動や作品を振り返り、この先どういう作品を作っていきたいのかどうなりたいのか等、
ぼやっと今まで言語化出来ていなかった部分をはっきりさせる為に
立ち止まって考える時期なのかなと思った次第です。
と、わちゃわちゃ言いながら、全く何も手を出していないかと言えばそういうわけでもなく、、、
↓新作根付の制作風景です。ほぼ1年ぶりに蛹をまたやってみようかと。
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↓こちらはお客様からのご依頼で差し値付の設計中です。果たしてどんな作品に仕上がるか、、、、
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今月はこんなところでしょうか。
自分の置かれている状況は常に変わるものとして、今年を乗り切りながら良いお知らせが出来ればなと思います。
用心し過ぎてもなる時はなるものではありますが、皆さまもご病気などされませぬようご自愛ください。
Twitter→ @moyamoyakurakur
Instagram → kenta_katakura
2020年1月 カタクラ ケンタ
- 2020/01/31(金) 13:00:00|
- カタクラケンタ(千葉)
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皆さまお世話になっております。作家のカタクラです。
2019年も残すところあと数日となりました。皆さまいかがお過ごしでしょうか?
僕はというと直近ではお客様からのご注文品を制作しつつ、
来年への準備、大掃除、親戚周りへの挨拶、忘年会、今年1年の振り返り、等々
まだまだ腰を落ち着けられない日々を送っています。
改めてご報告になりますが、12月の7日、8日の2日間で
週末展示在廊企画をギャラリーのほうで行っておりました。
短い期間でしたが、ご来廊・ご高覧いただきました皆様、大変ありがとうございました。
お客様と直接お話したり友人作家が駆けつけてくれたりと、嬉しい出来事ばかりでした。
来年もまとまった作品がお見せできるよう精進してまいります。
↓現場はこんな感じでございました。またやりたいナァ!



年明けには自分の状況もまた変わるので、
根付以外の仕事も徐々に復活させていかなくては、、、
といったところが2020年の目標になりそうです。
来年も何かとご迷惑をおかけするかもしれませんが、
ご指導ご鞭撻のほどどうぞ宜しくお願いいたします。
仕事納めの方もそうでない方も、皆さま何卒ご自愛ください。
それでは良いお年を。
Twitter→ @moyamoyakurakur
Instagram → kenta_katakura
2019年12月 カタクラ ケンタ
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【ギャラリースタッフから】
亥年最後の御客様への「亥」の緒締作品納品。
カタクラさんがご依頼を受けて制作した猪の緒締を、亥年が過ぎゆく前に無事お納めできました。
ありがとうございました。
右がカタクラさんの亥年の緒締、左は、巳年に作った永島さんの緒締です。

- 2019/12/30(月) 09:00:33|
- カタクラケンタ(千葉)
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カタクラ ケンタ 週末在廊展示企画 2019/12/7-8 終了致しました。
大変冷え込んだりもありましたが、
会場に足を運んで下さいました皆様に感謝を申し上げます。
有難う御座いました。
展示をしてみることで見えてくるものも沢山あります。
御来場の方々からいろいろな刺激をいただきました。
作家の今後を見守って下さい。何卒宜しくお願い申し上げます。
- 2019/12/09(月) 18:34:39|
- カタクラケンタ(千葉)
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