発売中の「美術の窓」2022年7月号 特集は「恐怖の表象 ~幽霊、お化け、怨霊、呪物~」

「解剖 水木しげる 現代作家に与えた影響」のコーナー 50頁
至水「ぬらりひょん」2015年制作
タイトルに妖怪の文字は入っていませんが、水木しげるさんの特集にもページが多く割かれています。
その中で、『現代作家に与えた影響』というコーナーがあり、至水さんの根付「ぬらりひょん」も掲載いただきました。
ページをめくると、幽霊(美人画としての幽霊画)の紹介があり、次に水木しげる特集。
そして歴史の紐解きで江戸や明治を振り返り。
お化け屋敷などの、娯楽としての恐怖。
美術界からの情報。
渾身の熱い特集だと思います。
「根津の根付屋」で妖怪好きな作家のみなさんのお相手をしている身としては、妖怪根付を念頭にした興味になってしまいます。
やはり、水木しげるさんの登場前と後では、何かが大きく違っていったのではないか?と思います。水木さんは巨大な存在ですから、当たり前のようなことではありますが。
妖怪を愛してやまなかった水木しげるさんの魔力によって、その後、妖怪は愛すべき存在に変わったのではないか?と思えます。
妖怪好きな人と、ホラー映画好きな人は違うような気がします。今回の特集で、「妖怪」と「ホラー的なもの」が並列されたことで、差異が見えてくる気がしました。
どうしても、妖怪を想う時は「ゲゲゲの鬼太郎」の怪しく楽し気な歌が頭に浮かんでくるのです。。。。。
(花影抄/根津の根付屋/橋本)
十四名の現代作家による、もののけ根付展
「勿怪(もっけ)の幸い」 第三集2022年7月9日[土]~17日[日] ※11日[月]休廊
13:00〜19:00(最終日〜18:00まで)
参加作家
かぶ、狛、三昧、至水、道甫、永島信也、美洲、
万征、森謙次、山鹿、由良薫子、楽虫、利歩、れんげ堂
https://www.hanakagesho.com/gallery/index.htmlこちらも宜しくお願い申し上げます。

- 2022/07/04(月) 23:56:57|
- 至水(北海道)
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至水 「異文化交流日中コラボ根付を彫る」数年前の事、中国のコレクターの方から、その方が親しくされている美術家の方が描いている作品をもとに根付を製作して欲しいというお話がありました。
その時は既に製作依頼は受けていない状況でしたが、他ジャンルの作家とのコラボレーション企画、面白いかも、と思ってしまい、先ずはその美術作家 文那(Wenna)氏の紹介と作品の解説など資料を頂き、これがなかなか興味深く…
文那氏は自ら創作した神や異形のキャラクターを壁に描き、そのキャラクターにストーリーを与え「Wenna Jing」と呼ばれる経典に収録します。
その後「Wenna Jing」へ収集されたキャラクター達をもとに、絵画、彫刻、現代アートなど、様々なジャンルの作品として製作されるそうです。
文那氏が創作されたキャラクター達を眺め、添えられたストーリーを読むにつれ、あー、これは、このノリは「画図百鬼夜行」じゃないの!と何か嬉しくなり、更に依頼を受けるに至らせた最大のポイントは、依頼主からの「"re-produce"よりも"re-create"で」という一文、つまり、文那氏の原案を元にいつもの至水節で良いという言質!
で、ここから至水も諸々あり着手出来ずに数年、やっと今年の初めに、依頼主、原案者(文那)、製作者(至水)、販売者(花影抄)四者連名サイン入り合作同意書を製作(著作権意識してキッチリやってみました)、正式に製作開始となりました。
幾つか提示されたキャラクターの中から、「束手」と呼ばれる神を根付化する事にしました。

文那(Wenna)氏の原画
束手の解説で面白かったのが、中国の諺「束手無策」から着想を得ているという事。
「束手」は「手を背中の後ろに置く」、「無策」は「方法はない」という、其々の言葉の意味をもとに創作されたキャラクターが、千の手を持ち如何なる問題も解決出来る神「束手」です。
如何なる問題も解決出来る束手ですが、人間が抱える問題は無限に生まれキリがないので、ある日束手は千の手を背に置き人間を助ける事を止めました。
つまり文那氏は「束手無策」という諺を「束手という神ですら問題を解決する術はない」と再解釈して見せているのです。
この解説を読んだ至水は、意匠構築に忍ばせた隠喩、見立て、言葉遊び… 成程これは根付だぞと感じてしまったのです、ニヤニヤしてしまいました。
あとは"re-create"です、至水ユニバースの同一世界線上に存在した第一層霊位神としての「束手」を描いた妄想奇譚「束手無策」と共に根付化します。

「束手無策」
第一層霊位に於いて束手の名を冠し存在する私には、現世の理を操作せしめる力を宿す塊根の如き体躯と旺盛に萌出させた手根が与えられている。
ある夜不意に現世を見下ろすと、今際の際彷徨う母に寄り添い泣きじゃくる童が目に留まった。
母の魂の器は亀裂が酷い、零れ出した魂塊はかろうじて器に留まってはいるが分離崩壊は時間の問題だろう。
壊れた魂の器から分離した魂塊は霊層の狭間に到達するが、上層霊位を目指す事無く輪廻の列に並び転生を待つ。
第三層霊位発現より無限に繰り返されて来た輪廻転生は、むしろ「ヒト」に組み込まれた不文律なのかもしれない…
そんな考えを巡らせつつ、今にも零れ切りそうな魂塊に指根を当て魂の器に押し戻す、そのまま頭から爪先まで指根を滑らすと亀裂は跡形も無く消え去り、母は意識を取り戻した。
悠久の時を費やし未だ第三層霊位より脱せぬ未熟な魂の器である「ヒト」には決して干渉してはならない、これは我々上層霊位の存在全てが心得る不文律である。
いや、ただ気紛れに「輪廻を止めてみた」それだけだったのだ。
ふと何かに気付いた束手は、眼前の奇跡に一層喜び泣きじゃくる童に目を向けた。
「下層霊位の魂に我々は認知出来ぬ筈…」例えようのない違和感、童がこちらを見上げ手を合せているのだ。
しかしそんな疑問も消え去る程、一心に喜びと感謝を表す童の姿を見ている内に微かに湧き上がる喜びの情、そして抗いようのない充足感…
その時からだ、束手は不文律を忘れたかのように未熟な魂の救済を始めてしまう。
「ヒト」の苦悩を霧消させるのは容易い、より多くの魂を救うため止め処なく萌出させた救済の手根は千に達し、国中の「ヒト」の喜びを得たいとまで思わせていた。
妙な事態に気付いたのはそれから50年程経った頃だ、あの瞬間から確かに存在していた一つの視線を通し、膨大な数の救済を求める「ヒト」の思念が明らかに私に向けられている。
視線を辿ると其処には私を見上げ手を合わせる白髪の男が一人、それは母の命を救われた童が成長した姿だった。
その男は私の存在を「ヒト」の世に知らしめ、奇跡を体現する者として、救済を求める「ヒト」の群を扇動するまでになっていた。
奇跡に対する期待は日々貪欲に増大し、遂に私の千の手根を以てしても拾い切れなくなった。
叶わぬ奇跡は私に対する失望に変わり、怒りが生まれ、怨恨と成る…
それでも止まぬ魂の救済への欲求に辟易した私の手根は萎れ数を減らし、思わず残った手根を背に廻した刹那、西方の彼方「ヒト」に干渉した末に堕天した豊穣神の話を思い出していた。
「よもや此の私が他層霊位間干渉事案の特異点になってしまうとは…」
自らの咎に後悔し、束手は永遠に沈黙した。
神は救いの手を差し伸べる事を止め「ヒト」の世から奇跡は消え失せたようだ。

"re-create"とはいえ原画と全然ちがぅ…と不安もあったのですが、完成報告後に返信が届き、依頼主&文那氏共々喜んで頂けたようで一安心。
今回のコラボレーション企画とても楽しく製作させて頂きました、しかし次、同じような事案を受けるかはまたどうなるか…
至水気紛れだな…
束手みたいだな…
※
【根津の根付屋】至水 作品アーカイブ2021年「束手」webページ
- 2021/12/29(水) 14:48:52|
- 至水(北海道)
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未来の付喪神たち -根付作家それぞれのカタチ-
2021年7月17日[土]〜25日[日]

至水出品作品のご紹介です。



作品名:付喪神 USBM -馬面染ミ坊主-至水ノ記憶-
(つくもがみ ゆーえすびーめもり -うまづらしみぼうず-しすいのきをく-)
蝦夷鹿角 象嵌:黒水牛角、USBメモリ64GB 4.5×4.4×2.7cm
▼作家のことば
「至水ノ記憶」
地球温暖化対策、生物多様性、植物生存権と言う概念、理由は如何様にも創出され、声高に世界の森林保護を訴える巨大な政治組織と化した地球自然保護団体は、全世界政府にゼロペーパー運動を推し進めさせるまでの圧力と成った。
2030年代後期から加速度的に進められたあらゆる既存データのデジタル置換アーカイブは義務化され、後の10年で新規生産の紙工業製品は完全消滅、人類の紙文化は終焉を迎えた。
現存する紙媒体データのデジタル置換が完了に近付いた2071年7月某日、追い詰められた狂信的物理記録至上主義者達のネットワーク「神ノ紙」は、世界各地で同時多発的サイバーテロを敢行、続く第二波EMP攻撃の影響は世界規模に及び、人類はデジタルデータの全消失と共に、化学、工業、文化のレベルを数世紀相当引き戻される事と成る。
2121年7月13日、七月盆真最中の函館は時任町にある本門寺の納骨堂。
鈴木の位牌と共に安置されていた小さな遺品、根付彫刻家至水が作品画像保存用に使用していたUSBメモリがコトリと動いた。
それは百年の時を経て付喪神と成り目を覚ましたUSBメモリ「馬面染ミ坊主」であった。
何やらしかめっ面で頗る寝覚め悪そうな馬面染ミ坊主、50年前に降り注いだEMPの影響か、頭の中にアーカイブされている筈の至水作品の画像が一つも思い出せない…
意を決し納骨堂を抜け出した馬面染ミ坊主は、脳内のフラッシュメモリに染み付いた至水の記憶を確認し、再び至水の記憶を人々に広め染み付ける為に、「根付」なんて言葉すら忘れ去られた世界でたった一人、接続可能なUSBポートを探し求め彷徨い続けるのである。
- 2021/07/17(土) 15:18:07|
- 至水(北海道)
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おひさしぶりの投稿です至水です。
先月、月刊美術6月号の特集「装うアートの最新形」で現代根付が取り上げられる事となり、誌上販売もされていた提物一式「蜘蛛ノ糸」は無事購入申し込みがありまして誠にありがとうございました。
目玉はなんといっても万征さん製作のカンダタ緒締(おそらく量産無しのワンオフ?)
これが無ければ蜘蛛の糸は成立しなかったので製作依頼を受けて頂いた万征さんに感謝です。
当初金属製のカンダタ緒締は田中 浩 氏の「しがみつ鬼」をカスタム依頼しようと考えていたのですが叶わず、緒締でしがみつく四肢を表現するためには素材は金属一択でしたので万征さんにお願いし、田中 浩 氏へのリスペクトと「しがみつ鬼」へのオマージュの意味で、私勝手に「しがみつカンダタ」と呼ばせて頂いておりました。

そして蜘蛛の糸を提物として成立させるため必須な要素は当然袋物、ここは多種多様な柄生地のストックで袋物を製作されている花影抄取り扱い作家れんげ堂さんに依頼。
根付紐をよじ登るカンダタが見下ろす地獄の様を表現する柄生地ってあるものかと?自分でもネット検索しまくるもなかなか難しく、れんげ堂さんより提案頂いた幾つかの「蜘蛛の糸」括りの柄サンプルの中にも「地獄」ズバリそのものの柄はやはり無く・・・
しかしその中に河鍋暁斎「髑髏の生活図」的な柄があり、何か妙に引っ掛かりまして、髑髏というには肉付き良く亡者に見えるし、中央の奴は周囲の亡者に「オイ上見て見ろ」と紐よじ登るカンダタを指さす仕草に見えてしまって、こんなラッキー、一期一会ってやつだなと。

さてここで「いやー美術雑誌の特集記事に現代根付をピックアップして頂いて良かった良かったホックホク♪」で終わらせてはいけません。
月刊美術の誌上販売申し込み受付期間が終わり諸々の結果から、根付を実用する形でのセールスは現状なかなかに難しい、というのがGalleryの総括だったようです。
現代根付ムーヴメント以降、根付彫刻家は生き残りを賭け根付を美術工芸品として製作し、今現在も大半の根付コレクターは根付を根付単体で美術工芸品として愛でているのだろうなと、それは自分も実感しています。
根付製作に於いて重要な、外せない決まり事、枕詞の様に付き纏う「実用を大前提に」という前置きは、実用しない事を大前提にした言葉ではないの?とずっと引っ掛かっていて、履く事なく飾られるスニーカーコレクション、走らされる事なく飾られるNゲージコレクション、1㎜もアクションされず剰えブリスターパックを開封される事も無く壁に貼り付けられるアクションフィギュアコレクション、などなどなど・・・
入手後どう扱おうが購入者が決める事、その通り!コレクションは良い趣味だし、対象が何であれそれも楽しみ方の一つだし、自分もコレクター気質あるしで全然問題ないのだけれど、根付を全く知らない人に「根付ってなんですか?」と問われたら、あなたが返す言葉があるでしょう?それが根付ですよね?
たまには紐を通して何処かへ帯同してあげて欲しいなと、そんな事願いながら、今日も明日もこの先もずーーーーーっと、使われる「道具」としての根付を至水は彫って行きます。
・・・起こせよ根付装身ムーヴメント
- 2020/07/10(金) 21:07:35|
- 至水(北海道)
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至水です
2019年7月末、毎夏友人と二人参加しておりますワンダーフェスティバルですが、
今回はGallery花影抄を我々の卓へ巻き込んでの出店参加となりました。
先ずは会場へお越しいただいたお客様、ブースに足を止めていただいたお客様方、
誠にありがとうございました。
そして快く賛同してくださいましたGalleryと出店参加いただきました作家の方々、
イレギュラーな出店準備作業をさせてしまいましたGalleryスタッフの皆様に
心より御礼申し上げます、ありがとうございました。
そもそもの発端は、今年はGalleryが出店申し込み受付期間中の
エントリーに間に合わず不参加になったとお聞きしており、
であれば私達の出店スペースに余裕がありますので、
間借り出店しませんか?とお声がけさせて頂いたのが始まりです。
イレギュラーな出店でもあり、どうせならばと、
昨年好評を博した妖怪グループ展「勿怪の幸い」を、
ワンダーフェスティバルと言う舞台で、極々小規模の「勿怪の幸いプチ」的な扱いで
実現出来ないものかと御提案させて頂きました。
ワンダーフェスティバルの会場で、客層で、
現代根付が売れるのか?という声も耳にします、意義は?と。
至水は2013年夏のワンダーフェスティバルから参加して
途中一度出店しない年があっての今年で6度目の出店になります。
初回はレジン製の根付を製作しましたが、二度目の出店から
いつも通りの至水の「根付」を彫刻しワンダーフェスティバルへ出店しています。
それを続けている理由は一貫して「ワンダーフェスティバルの会場には
未来の根付ファンになり得る人達が絶対にいる」を信じて疑わないからです、
自分がそうだったから。
その方達にフルサイズの現代根付を提示したい、見て触れて実感して頂きたい、
そして何年か後にでもGallery花影抄の誰かしらの個展に来られたお客様が
「あの年ワンダーフェスティバルで初めて知った現代根付を
とうとう買いに来ちゃいました」と、こんな話は夢物語なのでしょうか。
今回は本当に無理なお願いでGalleryを巻き込み
所属作家の方々を振り回してしまったと、今になって心苦しさの方が
勝っているというのが正直なところですが、今回のような形で
ワンダーフェスティバルを経験された皆様がこの後どう展開されて行くのか、
御覧頂けたお客様はどう感じられたのか、
結果が見えるのはまだまだ先の事かもしれません。
あの時花影抄のブースに来られ熱心に解説を聞いて頂いたあなたと
再びGalleryでお会いする日を想いつつ、至水はワンフェス出店し続けます。
また来年も幕張メッセでお会いしましょう!
ありがとうございました。
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- 2019/07/30(火) 18:13:57|
- 至水(北海道)
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